2001年に世界貿易センター(ワールドトレードセンター)で起きた 9.11同時多発テロのできごとや遺物などが展示されている博物館「ニューヨーク911メモリアルミュージアム」について紹介します。
ニューヨーク911メモリアルミュージアムとは
ニューヨーク911メモリアル&ミュージアムは、2001年に起きた9.11同時多発テロで崩壊したツインタワーの遺物などが展示されている博物館です。
ミュージアムは崩壊したツインタワー跡地(グラウンド・ゼロ)に位置しており、隣にはかつてツインタワーが建っていた場所と同じ所に、犠牲者を追悼するための巨大なプールから滝が流れる記念碑『9.11メモリアル』もある。こちらの見学は無料となっており、プールの縁には犠牲者の名前が刻まれています。
ツインタワーはニューヨークのマンハッタンに位置する世界貿易センター(ワールドトレードセンター)に存在した2棟からなる110階建ての超高層ビルのこと。完成当時(1973年)は世界で最も高いビルでした。
ビルの設計やデザインを担当したのは日系アメリカ人のミノル・ヤマサキ氏である。
日本のアーティストであるブラックビスケッツが1998年に発売した曲「タイミング」のMVには、ツインタワーの屋上で空撮した映像カットが多く含まれており、在りし日のツインタワーの姿を見れる貴重な映像になっています。
ミュージアムの前半は崩壊したツインタワーの遺物や犠牲者の追悼に関する展示が中心ですが、後半は事件当日の映像や各国のニュース映像などが閲覧できるほか、実行犯である国際テロ組織「アルカイダ」や、主導者の「オサマ・ビンラディン」らがテロを行うまでの経緯などが時系列で展示されています。
下記の世界史を予習しておくと、後半の展示をより深く理解することができます。
年号 | できごと |
---|---|
1990年 | イラクによるクウェート侵攻 【指導者】フセイン大統領 |
1991年 | 米国主導の多国籍軍による湾岸戦争 【指導者】ジョージ・H・W・ブッシュ大統領 サウジアラビアはイラクから身を守るため異教徒のアメリカと連携 異教徒と組むサウード王家を批判したビンラディンはサウジを追放されアフガニスタンへ 祖国を追われ反米感情が高まったビンラディンは、 旧ソ連軍への対抗組織だったアルカイダをテロ組織に発展させる 湾岸戦争は停戦 フセイン大統領は生かされる |
2001年 | アルカイダによる911同時多発テロ 【指導者】オサマ・ビンラディン 米国に過激なナショナリズムと反イスラムの空気が蔓延る アフガニスタン侵攻 【指導者】ジョージ・W・ブッシュ 戦争の名目は ・アルカイダの活動拠点の破壊 ・アルカイダの庇護者とされるタリバン政権の解体 同年11月にタリバン政権は崩壊 |
2002年 | ブッシュ大統領がイラク・イラン・北朝鮮に対して「悪の枢軸」発言 大量破壊兵器を保有するテロ支援国家だと名指しで批判 アメリカとイギリスはイラクへの攻撃準備を進める |
2003年 | イラク戦争 【指導者】ジョージ・W・ブッシュ アメリカとイギリスは国連決議を得ずに イラクに大量破壊兵器があるとの思惑のみで 証拠不十分だと反対したフランス・ロシア・中国を押し切って開戦 日本では小泉総理が「米国の武力行使開始を理解し支持する」と表明 同年12月、フセイン大統領は米軍により逮捕 |
2006年 | フセイン元大統領の死刑執行 スンニ派は追放され、シーア派がイラクの権力を握る イラクを追われたスンニ派は後にアルカイダと合流 過激派組織 IS(イスラミック・ステート)となる |
2011年 | パキスタンにてビンラディンが米軍により殺害 【指導者】バラク・オバマ イラク戦争の終結宣言 【指導者】バラク・オバマ イラクで大量破壊兵器は見つからなかった。 |
2020年 | 米国とタリバンで和平条約(ドーハ合意) 【指導者】ドナルド・トランプ 合意の主な内容は次のとおり ・アメリカとNATOは2021年までにアフガン完全撤退 ・タリバンはアルカイダを取締り、アフガンをテロの温床としない |
2021年 | 米軍のアフガニスタン撤退 【指導者】ジョー・バイデン 20年にわたるアメリカ史上最長の戦争は敗走に近い形で終わる 米軍撤退後、タリバン政権がアフガニスタンを掌握 アメリカの威信は失墜し、再びテロの温床化が懸念される 費やした戦費は約2兆ドル、2400人以上の米軍の命を失った これによりアメリカは軍事介入に消極的になったとされる |
2022年 | ロシアのウクライナ侵攻 【指導者】ウラジーミル・プーチン |
911メモリアル&ミュージアムは他の観光地と違い、決して明るい気分で楽しめる場所ではありません。
しかし、911同時多発テロは政治、経済、宗教、人種、感情などの問題が複雑に絡み合っており、現在の国際情勢を知る上で避けて通れない重要な出来事です。
ミュージアムを訪れる際は、事件の歴史的な背景を予習した上で鑑賞し、遠い記憶になりつつある同時多発テロの悲劇を記憶に留めると同時に、なぜこの事件が起きたのか、今の国際社会にどう繋がっているのかを考えるきっかけにして欲しい。
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アクセス
博物館 | 911 Memorial & Museum( 911メモリアルミュージアム) |
住所 | 180 Greenwich St, NewYork, NY 10007 |
最寄駅 | Cortland St(コートラント・ストリート駅) |
営業時間 | 9:00 – 19:00(火曜休館) |
HP | 公式サイト |
チケット購入方法
ニューヨーク911メモリアル&ミュージアムのチケットは当日購入も可能ですが、スムーズに入場する為にはオンラインで事前予約しておくことをおすすめします。
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911メモリアルミュージアムの行き方・入り方
ミュージアムは旧ツインタワー跡地(グラウンド・ゼロ)の場所にあります。
チケットオフィスは外にあるので列に並んでチケットを購入します。
Go Cityのパスがある場合はここで交換します。
チケットを受け取ったら「MUSEUM ENTRANCE」から中に入ります。
最初にセキュリティ検査があります。
検査後は博物館がある地下へ降ります。
最初に目に入るのは階段横にある旧ツインタワーの外壁支柱。
1本の柱が7階部分あたりからフォークのように3本に分かれ最上階まで達する直線的なデザインだった。
テロが起きたあと、99日間燃え続けたことで赤茶色に変色している。
エントランスでオーディオガイドを有料で借りることができます。
日本語にも対応しており、各展示の前でイヤホンを介して解説を聞けます。
10ドル程しますが、深く理解する為に利用をおすすめします。
あとから知ったのですが、アプリをダウンロード(有料)しておくと、スマホで音声ガイドを聞くことができます。帰国後もオフラインで聴けるので、こちらの方が良いと思います。
下記からアプリをダウンロードできます。
エントランスには在りし日のツインタワーや旧ワールドトレードセンターの写真が飾られています。
ミュージアム展示
ミュージアム前半は、テロ事件を時系列に沿って迫っていきます。
9.11の朝
2001年9月11日、8時30分にブルックリン側から撮影されたツインタワー。
悲劇が起きる日の朝、マンハッタンには快晴の青空が広がっていました。
飛行機のハイジャック
2001年9月11日の朝。
アメリカ北東部の空港を出発した飛行機4機がハイジャックされ、ニューヨークとワシントンに向かう。
ハイジャックされた飛行機は、東海岸からロサンゼルスやサンフランシスコなどの西海岸へ行く予定の便だった。実行犯たちは大量の燃料を積んだ飛行機を誘導ミサイルとしてテロ攻撃に使用した。
【1機目】
午前8時46分(日本時間:午後9時46分)
アメリカン航空11便がツインタワー北棟に激突。
【2機目】
午前9時03分(日本時間:午後10時03分)
ユナイテッド航空175便がツインタワー南棟に激突。
【3機目】
午前9時37分(日本時間:午後10時37分)
アメリカン航空77便がワシントンの国防総省ペンタゴンに突入。
【4機目】
午前10時03分(日本時間:午後11時03分)
ユナイテッド航空93便はワシントンの国会議事堂への突入が計画されていたが、米国でハイジャック事件が起きていることを知った乗客と乗務員の抵抗により計画は失敗、飛行機はペンシルヴァニア州の野原に墜落した。
事件の当事者たちの声や証言が集められている。
最初の展示エリアを抜けると鉄筋「スラリーウォール」が現れます。
スラリーウォール
マンハッタンは埋立地で地盤が弱く超高層ビルを建設するには不向きな土地とされています。
この問題の解決のため、スラリーウォール(Slurry Wall)という7階分の高さを誇るコンクリート壁で建物全体を覆うことで水の侵食を防いでいた。
もしビルの倒壊でこの壁が決壊していたら、ハドソン川の水がニューヨークの地下鉄などに流れ込み、莫大な被害をもたらしていた可能性がありました。
在りし日の夕日に佇むツインタワーと、倒壊したツインタワーの対比写真。
ツインタワーはアメリカの富と権力の象徴でした。
ツインタワーが倒壊し粉塵に包まれるマンハッタンの光景。
南棟が午前9時59分(激突から56分後)に崩壊。
北棟も午前10時28分(激突から1時間42分後)に崩壊。
高さ415メートルの超高層ビルは、わずか10秒ほどで崩れ落ちた。
通路の壁には同時多発テロで亡くなった方の写真が映し出されている。
生存者の階段
地下の展示場へ降りる階段の横にあるのが『生存者の階段(Survivors’ Stairs)』です。
ビルから逃げる人々がこの階段を降りて生還したことから「生存者の階段」と呼ばれている。
2機目が突っ込んだ南棟が先に崩壊し「次は北棟も崩壊するのでは」という恐怖に包まれながら、多くの人がこの階段を降りて外に避難した。
南棟が崩壊した29分後に北棟も倒壊。
この階段は多くの人にとって「生と死の境目」だったと生還した人は語っている。
追悼アート
生存者の階段を降りた先には、犠牲者を追悼するアートが展示されている。
最初に目に飛び込んでくる青い壁はスペンサー・フィンチによるアート作品。
「Trying to Remember the Color of the Sky on That September Morning」
(あの9月の朝の空を思い出そう)
青い色はテロが起きた日の朝の青空を表現している。文字の周りのモザイクは2983枚あり、9.11同時多発テロや93年のテロ事件で亡くなった人の数と同じ。
中央の文字は、鉄職人であるトム・ジョイスによる別作品で、倒壊した世界貿易センターの鉄鋼を使用して作られている。
文字は古代ローマの詩人「ウェルギリウス」の言葉。
「No Way Shall Erase You From The Memory Of Time」
(いかなる日も、時間の記憶からあなたを消すことはできない)
熱で溶けたビルの鉄は多くの命を奪ったが、その鉄を溶かし追悼アートとして再利用することで負の遺物にさせないという鉄職人としてのメッセージも込められている。
他にもツインタワーから見た景色を描いたアートなどが飾られている。
消防士を追悼する壁画が描かれた消防署のガレージドア。
死亡した消防署員8人を称えている。
ツインタワーの遺物
床には柱の跡が展示されている。
ノースタワーの屋上にあった鉄塔の一部。
テレビ配信用のアンテナも兼ねていたらしく、テロ発生後はテレビの視聴にも支障が出ていたらしいです。
1機目の攻撃を受けて現場にかけつけた消防車。
現場の近くで待機していたが、ビルの崩壊に巻き込まれてしまった。
ノースタワーの93階から96階の飛行機が激突した部分の曲がった鉄筋。
柱の下には具体的な場所を示す資料が展示されています。
衝突部分は飛行機のジェット燃料が燃えて高温になり、場所によっては摂氏1000度に達していたと言われている。むき出しの鉄筋は高温になり次第に溶け始める。
灼熱の業火と煙に追われた人々は、とどまって火に飲み込まれるか、窓から飛び降りるかの選択を迫られたとされる。90階以上の高さから転落する人の姿は、タワーの外から見守る人、新聞の写真、ニュースの映像で見た多くの人の目に焼き付いた。
正確な数字は不明ですが、ビルから飛び降りた人は200人以上いたと言われている。
最後の柱
事件後の撤去作業で最後まで残っていた柱であることから『最後の柱』と呼ばれている。
柱にはがれきの撤去や復旧作業にあたった方の写真やメッセージが飾られています。
September 11, 2001
9.11メモリアルミュージアムには『SEPTEMBER 11, 2001』という展示室があります。
撮影禁止エリアなので写真での紹介は行いませんが、このミュージアムの真髄部分です。
事件当時の写真や映像、世界各国で放送されたニュース映像、目撃者や生存者の証言など、事件のリアルがそのまま展示されています。
展示室の後半には、テロ実行犯たちの名前や顔写真、「アルカイダ」や「オサマ・ビンラディン」に関する資料、実行犯が空港のセキュリティを通る映像などが展示されています。
流れとしては、テロの残酷さや犠牲者の追悼などが中心に展示されており、来館者を感傷的な気持ちにさせた後、テロ実行者たちの姿や情報を見せられる。そして、アメリカはアルカイダなどのテロ組織を潰すための「対テロ戦争」を始めるという流れで終わっています。
あとがき
9.11メモリアルミュージアムは、同時多発テロの悲惨さを後世に伝えることや、犠牲者への追悼という面では大きな役割を果たしています。それ自体に全く問題はなく必要なことだと思います。
一方、なぜこのような事件が起きたのか、歴史的な背景や文脈にはあまり触れられていない印象を受けました。
ミュージアムのコンセプトが「事件の記憶と犠牲者の追悼」であれば、事件の背景をあえて深く伝える必要はないのかもしれません。事件や犠牲者の死を通して、テロ事件以前・以後の政治、経済、宗教、人種、感情などの問題について考えることはミュージアムの役割ではなく、各個人がそれぞれ考えれば良いことなのです。
9.11同時多発テロは、すでに『過去のできごと』という感覚になってきていますが、テロが起きるまでの歴史的な背景や、アフガニスタン紛争の結末を知れば、過去の出来事どころか、未だに根本的な問題の解決に至っていない『現在進行形のできごと』であることがわかります。
日本は経済や宗教上の理由で他国と対立する可能性は低いと思いますが、戦後の国の成り立ち上、アメリカとの協調姿勢は避けられないので、間接的に当事者になる可能性は高いと言えます。
他の観光地のように明るい気分で楽しめるものではありませんが、9.11同時多発テロはアメリカやニューヨークだけの歴史ではなく、現在の国際情勢を理解する上でも非常に重要な出来事です。
ミュージアムを訪れる際は、犠牲者の追悼とテロの悲劇を学ぶ機会であると同時に、過去と現在の歴史的な背景も踏まえながら、9.11事件を様々な角度や視点から考えるきっかけにして欲しいと思います。
ニューヨークを訪れる際は、ぜひ時間をかけてゆっくり鑑賞することをおすすめします。
ニューヨークパスを利用すると、ワン・ワールドトレードセンター展望台の入場券も付いてきます。
同時多発テロの辛い過去と、悲劇からの復興の象徴であるワンワールド展望台の両方を体験してみてください。